『いたたまれないおかず』


それは小学生時代の事。
「明日は家庭科の授業でご飯を炊くから、みんなウチでおかず作ってもらってきてください。」先生が言った。
「は−い」

私は早速、家に帰って母に言った。
「明日、家庭科でご飯炊くから持って行くおかず作っといてね。」
「あ〜、わかった、わかった。」

そして翌朝、家を出る段になって
「お母さん、おかずは?」
「あら、そんな事言ってたわねぇ…」
「言ってたわねぇじゃなくって…忘れてたの?!もう、出ないと間に合わないよ。」
「じゃあ、これ持って行きなさい。」

母から手渡されたのは”ごはんですよ”だった。
桃屋の”ごはんですよ”
さっきまでそこの食卓に置いてあったやつ。

もう間に合わない。
私はそれをカバンに突っ込み学校へと向かった。


そして家庭科の時間。
楽しくみんなでご飯を炊いて、家庭科室の大きな机をみんなで囲んで座った。
「じゃあ、みんなおかず出していただきましょう。」
「いた〜だきま〜す!」

「あれ?キブン君は忘れたの?」と同じ机になった先生。
私はおずおずとカバンから”ごはんですよ”を出して机に置いた。
ゴンッ!
班のみんなの視線が”ごはんですよ”に注がれる。いたたまれない…。

「…み、みんなキブン君のおかずと自分のおかずとちょっとずつ交換してあげてね。」
「でも、それキブンの家族がみんな箸突っ込んだやつだろ!」
容赦ないクラスメートの一言。

「…あ、あら、先生は海苔の佃煮好きよ。先生のおかずと交換してね。」
「いいよ…先生…。」
いたたまれない。やさしさがかえっていたたまれないよ…


母さん、いっそ何も持って行かない方が良かったよ。