『人生最大の屈辱』


私の人生最大の屈辱は小学校低学年の頃の夏休み。
母と私たち兄弟は母の実家である和歌山に向かっていた。
そして忘れもしない、所は大阪天王寺。電車の乗り換えである。
私たちがホームに着くとすでに多くの人が列車に乗ろうと並んでいた。
順番からいくと私たち家族はとてもじゃないが座れそうになかった。
和歌山まで立ったまま約二時間。
母は一計を案じて私に囁いた。「窓から入って席を取りなさい」
小学校低学年と言えば、世の中でやっていい事と悪い事を多感に感じるピュアな年代である。
そんなことやれるわけがない。
「お母さん、そんな事できないよ」
すると母がまた囁いた。
「あんたが席取らないとちっちゃい妹まで立ってなきゃなんないのよ」
悪魔だ…妹の事まで出して私の心を翻弄しようとするとは…
しかし、私も泣きそうになりながら抵抗した。
「でも、だめだよ、みんなちゃんと並んでるんだから…」
そんなやり取りをしているうち、アナウンスとともに列車のドアが開いた。
すると母はおもむろに私を抱き上げ列車の窓から中へと投げ込んだ。
それはあっと言う間の出来事だった。私はひとり誰もいない列車の中で立ち尽くしていた。
唖然としている私に「ちゃんと席取ってるのよ」と叱責が飛ぶ。
ここまできたら従うしかない。
私は対面になった4人席を手足を伸ばしてキープしたのであった。
そうするとちゃんと並んで入ってきたおばちゃんが私を見咎めこう言った。
「まあ、なんて子かしら!」
ボ、ボクのせいじゃないんです…私の心の叫びは涙に変わった。
今でも私の心におばちゃんの言葉は響き続ける。
「なんて子かしら…なんて子かしら…なんて子かしら…」