『招かざる客』


私が小学校一年生の時、私の席の後ろで女子が何やら打ち合わせをしている。
「今日、リカちゃんの誕生会何着ていく?」「あたしはねぇ〜....」
何っ、山本リカちゃんの誕生会ですとぉ〜!これは友達として私も行かねばなるまいっ!
そうだっ、私には未体験の誕生会!きっと学校の「お楽しみ会」みたいな感じに違いない!
ケーキも出たりして...ハッピーバースデーみんなで歌ったりして...
くぅ〜!照れ臭いけど楽しそう!これは行くしかないでしょう!!

早速、私は家に帰ると誕生会に行く準備を始めた。
ここは一発決めねばなるまいと入学式に着たブレザーを母親に用意してもらった。
あとはやっぱりプレゼントである。手ぶらで行ってはジェントルマンとしてハズカシイ。
「おか〜さんっ!何かプレゼントになるようなもの用意しといてっ!ちゃんと包んでねっ!」
そして母親が用意してくれたプレゼントをむんずと掴んで山本リカちゃんちへと急いだ。

初めての誕生会、緊張の一瞬である。私はおずおずとチャイムを押した。
「ピンポ〜ン、ピンポ〜ン」
玄関の向こうでバタバタと走ってくる音が聞こえる?
「今度は誰?誰?」向こうでは期待に膨らんだ声が聞こえる。玄関に立つ私もワクワクである。
そして玄関のドアが開けられた。
「は〜い」とリカちゃん。リカちゃんの後ろにはワクワク顔の女子達。あ〜緊張しちゃう。
しかし、リカちゃんの小さな口から発せられた一言は予想だにしないものだった。

「宮下君、今日は何しに来たの?」
えぇっ!何しに来たのとなっ!!何しに来たも何もリカちゃんの誕生日をお祝いしに来たのではないかっ!
後ろに集まっている女子達もさっきまでの期待感は今いずこ、視線を逸らしたりして「あちゃ〜...」っていうような急によそよそしい感じになっている。
そして女子の一人が私に言い放った。「宮下君、今日招待されてないんじゃない....」
え〜何ですとぉ〜!誕生会っていうのは招待された特別に選ばれし者だけが参加できる催し物だったとは....知らなかった....。
小学一年生の小さな頭脳、たった7年目に入ったばかりの人生経験である。
リカちゃんはこの場をどう収拾すればよいか、妙案も浮かばず黙っている。
私とて何と言ってこの場を去っていいかわからない。
そこに、パタパタとスリッパの音をさせながらリカちゃんのママが現れた。
「あら、どうしたの?」
「宮下君、招待されてないのに来ちゃったんだよぉ〜」必ず、得意げにこういうことをズバッと言い放つ女子が一人ぐらいいる。
屈辱である。もう、ドアを閉めて駆け出したい....。
するとリカママが「にぎやかでいいじゃない、宮下君にも上がってもらいなさい」
あ〜天の声、お母さんステキッ!
リカちゃんもやっと我に返り「そっ、そうね、宮下君いらっしゃい!」
凍りついていた空気がやっと溶け、私もリビングへと通された。憧れの誕生会の始まりである。

しかしテーブルの上には、いかにも今カットされたばかりのケーキが置いてあった。
「あら、ケーキどうしようかしらね〜....みんなのケーキちょっとずつ切らしてね」とリカママ。
「招待した人数で切ったから数があわないんだよね〜」と一言多い女子。
ウググググッ....覚えてろっ....いつか目に物みせてくれる!
しかし、初めての誕生会、こんなことで楽しい雰囲気を壊してはならない。ここを耐えてこそ楽しい誕生会である。
そして私は突然の訪問者であったことを気持ちから消し去り、楽しく誕生会を過ごした。
楽しい時間はあっというまに過ぎ、とうとう待ちに待ったプレゼントの時間である。
リカちゃんはみんなから順番にプレゼントを貰っては、「あ〜っ、このノートカワイイッ」とか「こんなコップ欲しかったの」なんて感じでご満悦である。
私もリカちゃんにプレゼントを渡した。
突然の訪問者であった私もしっかりとプレゼントを持ってきてる。
なんて気が利くんだ。これで逆転満塁ホームランだ。
リカちゃんは包装をはがし箱を開けた。
「宮下君、コレ何?」
えっ?私のプレゼントに何か問題でも??

箱から出て来たのは巨大な王将の駒の形をしたツマヨウジ立てだった。
その上、ツマヨウジの頭は小さなコケシの頭がついてる。
そうだ、これはウチの父が出張のお土産にと先日買ってきたものだ....。

母ちゃん...俺は俺なりに十分にがんばった....なのに....
なんで女の子へのプレゼントが王将のツマヨウジ立てなんだよぅ....。