『縛り首』


それは、私が小学生の頃の事です。

「縛り首だ〜!!」

夜中、家中にこの声が突然響き渡りました。声の主は厳格な父でした。家族中飛び起き、父の寝室へと覗きに行きましたが、そこには寝息を立てるいつもの父がいるだけでした。家族は口々に「今、縛り首って言ったよね」「確かに縛り首って言った」「お兄ちゃんが夢に出てきたんじゃないの?」などと勝手なことを言いながら眠い目を擦りながら布団へと戻っていきました。

しかし、なぜ「縛り首」??謎は深まるばかりです。

こういうことは本人に聞くしかありません。

「お父さん、昨日の夜『縛り首だ〜』って叫んだの覚えてる?」

「わしは、叫んどったか?」と父。「すごい叫びだったよ....なにが縛り首だったの?」と私。

それからの父の話をかい摘んで話すと、町にならず者の若者がいて、町の人間がいくら注意しても反省しようとしない。保安官である父がその若者を捕まえてきて、裁判に掛けたそうです。町の人は口々に「縛り首にしろ〜」と叫んでいます。そこで父は「縛り首だ〜!!」と判決を下したそうです。

夢というのは夢占いがあるように現実を反映していることが多々あります。そこで父に「なんでそんな夢見たの?」と聞いてみました。

「最近、新入社員が入ってきてな、全然言うことを聞かんのや....」

父ともあろう人が新入社員の事でそんなに悩んでいたとは....管理職は大変だと子供心に思いました。

父に「縛り首だ〜!!」と叫ばした新入社員、彼にとって時代が現代で本当によかった。もし西部の時代なら、父は間違いなく彼を「縛り首」にしたであろう。