『スウィート・メモリーズ』


俺が中三のとき親父に福岡転勤の辞令が下った。
しかし兄ちゃんの受験のこともあり家族はその頃住んでた高知に残る事になった。
「家族は一緒に暮らすもの」を家訓とする親父は熟考の末、俺に向かってこう言った。
「おまえだけでも付いて来い!」と。
その一言で突然親父との福岡二人暮しが始まったのだ。嗚呼…。
これはその頃の話。

ある日、学校で遠足に行く事になった。遠足と言えば弁当だ。
しかし、当時はホカ弁もコンビニも無い。俺は何を持って行けばいいのだ?まじでまじで…。
そしてとうとう遠足当日になってしまった。
「あ〜、遠足面倒くせ〜…休もっかな。でも、ずる休みがばれたら親父に怒られるしな…」
その頃親父は家に帰ってきて「勉強しとったか?」と必ず俺に聞いた。
あたりまえのように「もちろんしとったよ」と答えると、親父はおもむろにテレビの裏を触り「お前、テレビ見とったろう!テレビが熱うなっとるわい!」とKGBのような事をする人であった。ばれんわけがない。

そうだ、あそこなら開いている。俺は早朝その店に走った。
「ミスタードーナツ大濠公園前店」
当時福岡で唯一のファーストフード店やった。
そして山に登って食べたフレンチクーラーとオールドファッション。なんちゅうミスマッチ。
うまいわけない。楽しいわけない。
それ以来、甘いものは食べてない。