『ゾエシのマフラー』


浪人時代、博多で通っていた予備校にゾエシという友達がいた。彼は個性的なヤツで、例えばある朝、上半身きっちりYシャツ、ネクタイ、ジャケット、そして下半身だけはなぜかジャージといういでたちで現れ、「これぞ北野広大ルック!(by熱中時代)」などと宣うヤツなのでした。そしてまたある時はマックでみんなで談話中に突然立ち上がり「マックにいらっしゃってる皆さん、え〜草刈〜マサオです」と物真似を始めたり。まあ、そんなどこにでもいる感じのヤツです。(いるか!)


ある冬の朝、「今日は寒いのう〜」などと言いながら教室に入ってきた彼を見て、教室の空気が凍りついた。
「ゾ、ゾエシ...オマエ首に何ん巻いとうとや...」
マフラー
「オマエ、首に巻いとうの、どう見てもジーパンやろ....」
「俺のマフラーおかしいや??」
「おかしいも何も、オマエのマフラー股から2本になっと〜やないか」
「そおやの〜....」


翌朝、彼の首にはまたジーパンが巻かれていた。
「ゾエシ、またジーパン巻いて来たとやっ?」
「俺も考えたんやけど、やっぱりマフラーに股があるっちゅうのは巻きにくい。やけん一本に切ってきた」
確かに彼の首に巻かれていたのは片足分だけのジーパンだった。


そして昼休みの事、彼は寒空の下、郵便ポストに向かって話しかけていた。
「オマエもそんな真っ赤な顔して寒いんやろ。俺とお揃いのマフラー巻いたろか?」彼は片手には、残った片足分のジーパンが握られていた。
明らかに郵便ポストも迷惑そうだった。なにせ怒りで顔が真っ赤になっていたぐらい。